楠木(クスノキ)の回収(調布市)

 樹種:楠木(クスノキ)
伐採地:東京都調布市のマンション建設現場

クスノキ並木の一部がマンション建設で伐採されているとの情報が、現場の近所に住むマチモノ会員の方から入りました。急いで見に行くと、既に上の部分の伐採が終了し、主たる幹のみが残されている状態でした。

現場監督さんとお話しをさせて頂き、回収の許可を頂き、その上でできるだけ木材として使える状態に伐採して頂くようにお願いしたり、伐採の日取りや当日の段取りなどの打合せを行いました。また並行して、運搬のためのトラックとドライバーさんの手配と製材所の受入の手配も行います。

工事現場での伐採木の回収では、どうしても工事の工程を滞りなく進める事が優先されるので、こちらの都合で引取の日程を組むことは難しく、大抵はほとんど幅のない指定された日時に合わせなければなりません。もちろん当日の作業も、工事の進行の妨げにならぬよう速やかに行います。

楠木からは防虫剤の原料となる樟脳が採れるのですが、さすがの抗菌力、どの木も腐れなどの痛みはほとんど見られませんでした。街の木では、木にダメージを与える剪定が行われていることが多く、往々にして材に痛みが見られるものですが、痛みがないのはとてもありがたいことです。

今回回収した木々は樹齢30年前後、というところでした。楠木は成長が早い木で、都市部の公園などでも、今回のものよりも遙かに大きな巨木に成長している木々がたくさん見られます。

楠木の巨木は「保存樹木」に指定されたりもしているのですが、これには問題もあります。この問題は都市部ならではのものですが、大雪や強風による枝の落下など、大きな木は人里においてはときに危険な事故を引き起こす可能性があるのです。このことはあらゆる樹種において言える事ですが、とりわけ楠はその傾向が顕著なのではないかと感じます。

楠木はそもそも暖地の木で雪には強くありません(楠は木+南、「南方から来た木」であるということです)。また強風に対しても、楠はしなって受け流すよりも、枝を折って対処します(だから折れた部分から細菌が侵入しないよう、防虫成分を体内にためているのです)。

私の地元の公園でも、20m以上もの高さに成長した楠木の立派な枝が、大雪や強風で折れてたくさん落下して、現に被害も出ているのです。


(参考画像:世田谷区の公園で雪により折れた楠。大人の腕や脚ほどもある太さの枝が山のように落ちています。)

都市の緑は原生林ではなく、我々の生活との関わりの中にあるものです。今回、地元の人々になじみ深い並木が伐採されてしまった事は残念なことですが、このくらいの大きさで伐採し、更新していくという考え方はあっていいのだと思います。

管理者は大きな木だから「保存樹木にしましょう」ではなくて、樹種ごとに異なる木の性質を良く知り、正しい知識に基づいた維持・管理をしなければならないでしょうし、私たち住人にも、楠の巨木が林立するような公園には雪の日には立ち入らない、といった心がけが求められるのではないかと思うのです。

現場の方々のご協力のおかげもあり、この日の回収作業は滞りなく行われ、無事に製材所へと旅立って行きました。


さて後日、製材所にて。製材所の社長さんと一緒に作業を進めます。伐採された丸太は樹皮の凸凹の間に砂などを噛んでいるため、製材機の帯ノコの刃を傷めないようにできるだけ剥いておきます。また、コブや切られた枝の痕などの凸凹は、台車への居つきが良くなるようにチェーンソーで落とします。

曲りが大きい丸太は、やむを得ず短く切って製材することもあります。丸太としては、一般にできるだけ真っ直ぐで枝分かれや節がなく、腐りや痛みが入っておらず、樹齢が行った太いものが最上であり価値が高いものとされています。しかしながら、そのような丸太は極めて少ないものであり、みんないろいろなクセ=個性をもっているものなのです。

台車に乗せて、、、この丸太をどのように製材したら最も無駄なく良い材がとれるのか? 製材した材をなにを作るのに使うか? といったこととも合わせて素早く判断しなければなりません(製材は時間あたりで費用が発生するのでもたもたしてはいられないのです)。

丸太は一本一本、特徴が異なります。最初のカットをすることで見えて来た特徴によって、方針変更をすることもあります。どれも大切な丸太であるわけですが、製材の善し悪しによってその後の歩留まりは大きく異なります。やってしまったら取り返しのつかない作業であり、運動神経と言いますか、その場その場での決断が求められるのです。

製材をしてはじめて木の内面が見えて来ます。その木が歩んできた歴史が開示される、最高にわくわくする瞬間です。

製材したての濡れた材面は瑞々しく美しいものです。木は製材した瞬間が最も美しい、と言い切ってしまうことには、木材を加工する者の立つ瀬がなくなるようで抵抗があるのですが、そう思わずにはいられないくらい、このときだけの美しさというものがあるのです。

クスノキは芯材(木材の中心部に近い部位)は黄〜赤褐色、辺材は白とその境界は明瞭。樟脳の成分を含んでいて虫や細菌に強いクスノキらしく、腐れや痛みはほとんどありませんでした。ただ、上の写真の丸太では芯の部分で水割れ(冬期に水分が凍結・膨張したことでできた年輪に沿って剥離する割れ)がありました。

お昼や休憩を挟みつつ、どんどん製材。

車に積みきれなかった分は一時保管をお願いして、この日は終了。

世田谷にて、桟積みして自然乾燥。自然乾燥の行程でも、いい加減にしているとせっかく手間やお金をかけて板にした材が、簡単にカビたり虫が付いたり歪みや割れが大きくなったりしてしまうので気を抜く事はできません。

(ここから先はまた進展があり次第、記事を書き足して参ります)

〈木材の乾燥についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧下さい〉
〈製材についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧下さい〉

 

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