製材した木材を乾かすには

伐られたばかりの木にはたくさんの水分が含まれています。木材がどの程度の水分を含んでいるかは、「含水率」で表すのが普通なのですが、伐採したての木の含水率は非常に高く、100%越え、時に200%に達することもあるくらいです。

          含水率(%)=(木材の乾燥前の重量(g)-乾燥後の重量(g)) ×100
                        乾燥後の重量(g)
  


〈乾燥がある程度進んだソメイヨシノの板。盛大に、板として用をなさないほど歪みが出ています。〉

木は伐られると乾燥にともなって含水率を下げて行きますが、その過程では変形、収縮、割れなどが起こります。これは製材して板や角材にした場合でも同様で、多かれ少なかれ必ずその材が内包しているクセが出て反りやゆがみや割れが生じます。

なにか作品を作ってしまってから歪んだり割れたりしては困りますので、木を木材として利用する場合には、一般にこの含水率が一定以下になるように乾燥させてから用いるのが普通です。(例外もあります)


〈世田谷の建設現場で回収した栗、シイ、ケヤキなどの天然乾燥風景〉

製材して板にした木材は、風通しのいいところで板と板の間に桟(20mm角くらい)を挟んで積み、乾かします。桟の間隔は一尺〜一尺半(30~45cmくらい)。桟をたくさん入れるのは、桟を繁に入れた上で上から加重を掛けることでできるだけ変形を抑えようという意図です。板の間に挟む「桟」だけでも大変な量の木材が必要ですね。


〈薄い板は特に反りやすいので、それだけ桟を繁にします。もちろん、反りにくい木取りで製材することも重要です。〉

端の桟は、あまり板の内側に入れずに板の端(木口)近くに設置します。木口は乾燥にともなって特に割れやすいのですが、桟が木口近くにあることで木口付近の急激な乾燥を抑えて木口割れを軽減する効果を発揮します。また、急激な乾燥を防ぐため、木口に木工用ボンドなど乾きを抑える薬剤を塗布する場合もあります。

天然乾燥中に雨がかかることは通常それほど問題にならないのですが、簡単でもいいので雨除けを設置すると良いでしょう。梅雨時のように濡れて乾かない状態が何日も続いてしまうと(そもそも木材が水分をもっていますので)カビが発生したり木材に悪さをする虫が取り付いてきたりします。


樹皮のあたりには木を害する虫がいることが多いので、本当は樹皮は剥いた方がベターです。ではなぜ写真の木材は皮が剥かれていないのか? 凸凹が激しい丸太であったため、皮むき機に掛けられなかったのです。丸太の状態で皮が剥きにくくても板にしてしばらく乾かすと、大抵は樹皮が浮いてはがれやすくなるので、できるだけ取り払っておきましょう。

手作業で皮を剥く道具もありますがこれはもう大変な作業です。


〈製材所で天然乾燥中の街の木々。世田谷区のエノキ、桜など〉

天然乾燥に要する期間は、木を伐採した季節や樹種、板の厚みによっても異なりますが、最低半年から一年、場合によってはそれ以上の期間を要します。

ちなみに木を伐るのに適した時期は地域の気候によって多少の違いはありますが、一般に9月から2月〜3月くらいの間(彼岸から彼岸まで)、この期間は「伐り旬」と呼ばれます。この期間の木は休眠期に入っており、含水率が少なく材木にするのに適している、というわけです。


〈ほどほどの乾燥具合、それなりに水分を含んでいる木を加工。完全乾燥材よりも軟らかくて掘りやすい。〉

含水率をどのくらいまで下げるかは作るものや求める精度によって異なります。少々歪んでも問題にならないもの、たとえば手作りのスプーンや器などでは、激しい変形が起こらない程度にそこそこ乾いていれば充分であることがほとんどです。

とくに手彫りの器などでは、生木(水分をたくさん含んだ状態)の方が軟らかくて掘りやすいので、あえてそういう状態で加工するやり方もあります。その場合、完全な乾燥材に比べれば軟らかいので掘りやすいのですが、急激に乾いて割れないように注意しながら加工を進めなければなりません。

一般に製品になるレベルの家具や建具を作る場合には、天然乾燥を経た上で人工乾燥という行程を経て、更に含水率を落とした材を使います。上の写真は蒸気式乾燥室。上右は内部で乾燥中の様子ですが、蒸気であまりわかりませんね。

一般に人工乾燥の行程を経た材は「乾燥材」と呼ばれます。KD材(Kiln Dry Wood)と言うことも。それに対して乾燥が不完全な材は生材グリーン材などと呼ばれます。伐りたて、製材したてのものからかなり天然乾燥が進んだものまで程度は様々ですが、人工乾燥を経ているかいないかは材を選ぶ際の大きなポイントになるのが普通です。

こちらは高周波式乾燥室。電極で木を挟み、電子レンジのような方式で木を乾かします。ちなみに、小さな木材であれば家庭用の電子レンジに入れて乾かすという方法もありますが、加減を間違えると材を痛めるので慎重に。

人工乾燥では電気代や燃料代がかかりますので相応の費用が掛かるわけですが、材の含水率を一桁台まで落とすことが可能です。その後、倉庫など通常の湿度環境でしばらくのあいだ養生し、周囲の環境に馴染んで10%台前半に落ち着いたところで家具などに加工します。

丁寧な仕事をする木工家は、人工乾燥を経た乾燥材であってもいきなり目標とする形に加工するのではなく、ひと手間かけて狂いを出しながら仕事を進めます。

たとえば27mmの荒材(製材をして乾燥の行程を経た歪みのある材)から20mm厚の平らな板を作るのだとしたら、いきなり20mm厚にすることをせず、いったん24mmくらいまで削ってしばらく養生して放置して、時間が経ってわずかに生じる狂いを出してからまた削り、目的の20mmに仕上げて行くのです。

 【まとめ】

製材したらだいたい半年から1年のあいだ桟積みをして天然乾燥、その後に人工乾燥、というのがプロが使う木材のあつらえ方ですが、一般の方がちょっとした丸太を手に入れて自分で製材したような場合には、天然乾燥はともかく人工乾燥に入れるのは難しいことと思います。

そのような場合には、天然乾燥でそれなりの期間を経て、反りや狂いが出たらいったん削って平らにしてからまた乾かし(養生し)、また狂いが出たらまた削って数日置いてみる、そのようにしてどのくらい狂いが出るものか出ないものか確かめたりして、素材と良く対話をしながら加工を進めて行きましょう。

もちろん、天然乾燥を何年もしておける時間があれば別ですが、そのような場合には風雨にさらされて乾燥中の木材が傷まないように、しっかりと屋根をかけ、地面からの湿気や虫などの害が及ばないよう、長期間の保管に耐える環境をつくって乾燥させなければなりません。

木材は長い年月が育んだ貴重な素材です。製材、乾燥と丁寧に細心の注意を払って材木にすることが、歩留まりの良い(棄てるところの少ない)材を得ることにつながります。面倒なようでも、ひとつひとつの行程を丁寧にあせらずに行うことが、トータルで見ると結局は無駄がなくいい結果につながります。

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